ワヤン大会2005ジョクジャ報告 

Kongres Pewayangan 2005

「まぼろしの城をめざす」を見て

チュ・S



上演について

 演目「まぼろしの城をめざす」による日本ワヤン協会のワヤン・クリ公演が、二〇〇五年九月十五日夜、十時始まりで、八十五分間、お目見えした。インドネシア、ヨグヤカルタ(通称ジョクジャ)における「国際ワヤン大会2005」の場においてである。
 この第一回ワヤン大会は二〇〇五年九月十四から十八日まで開催された。実行委員長はジョクジャのウィディタ・ジャワ財団の長でもあるヌルサトミカ氏で、同氏は、ヨグヤカルタのスルタン王宮の王であり、ヨグヤカルタ特別州知事でもあるスリ・スルタン・ハマンク・ブウォノ十世の指示により、この大会を運営したのである。
 この期間、昼間はホテル・ガルダでのワヤンにかんする研鑽・討議、夜が5ヶ所で同時進行のワヤン上演である。この大会に出席したのは、ヨグヤカルタやスラカルタ(通称ソロ)、東部ジャワ、西部ジャワ、ジャカルタ、カリマンタン、ヌサトゥンガラからのダランたち五百人以上を含め、多くのワヤン研究家、文化人、学者、また一般の好事家たちだった。
 日本ワヤン協会のワヤン「まぼろしの城をめざす」の上演は、このワヤン関係者たちによって大いにその積極性を評価された。積極性とは、その上演がジャワ、しかもジャワ文化の中心地のひとつであるヨグヤカルタで、またさらにはインドネシアのワヤンやガムランの専門家たち、また文人、文化人五百人以上も見守る中で上演されたからである。
 とはいえ、キ・リョウ・マツモトはダランとして、作者また演出者として終始自信に満ち、精神性、情感にあふれていて、あきらかにその上演は大成功を収めたのである。
 それはまたここに参加した日本ワヤン協会のアシスタントまた支援者全員のおかげである。たとえば音響、照明、語り、音楽構成、さらにバロンガン風の三人の出演者たちである。クリルに影を映じたジョクジャの女子高生ウラン・ルクノワティの踊りもよかった。彼女は感受性にみち、その肉体はクリルの裏側のかげに美しくシルエットの効果を示すことができた。

ワヤン上演の形

 上演のはじまる前、キ・マツモトがその仲間と舞台の準備中、これを見ていた幾人かの大会参加者は、この舞台はふつうのワヤン・クリのように展開されるのかな、と考えたのだ。というのも六X十二メートルの広さの舞台に高さ二メートル、幅九メートルの広さのクリルが張られたからで、それはジャワの一般のワヤン・クリ上演のさいと同じ様式だったのだ。日本からのワヤンだというのに。クリルの両側に若干のシンピンガン(クリルの左右に並べられたワヤン)さえ用意されたのである。
 しかしこの上演に使用されたワヤンの形はユニークで、じゅうぶんに見物客のイメージを刺激したと言えるだろう。人物たちの姿も、鳥や亀、舟、「まぼろしの城」を想わせるかたちの楼閣、またコンピューターで描かれた絵によるグヌンガンも。 しかもこのグヌンガンは、インドネシアはウォノギリのクプ村でひとりのワヤン制作者によって古典的に彫られ、色付けされたものだった。
 このグヌンガンは舞台で操作されるとき色彩効果を発揮し、美しい絵をみせ、さらに照明は伝統的なブレンチョン(百ワット)と三個のやや強力なスポット・ライトの光の混合と組合わさって、効果をそえた。このような照明で、生命力にみちた舞台をつくりあげ、それはキ・マンタプ・スダルソノのワヤン上演の舞台に引けをとるものではなかった。

ラコン(物語)と、観客のプロフィル

 さてキ・マツモトによって展開されたラコンは、まずは架空物語で、インドネシア、ジャワ、ヨグヤカルタでは、民話に属する。
 しかしキ・マツモトはこのワヤンの上演において、一個の演劇システムを提議していて、これが見物客、特にジャワの専門のダランたちの財産を殖やしたのだ。
 キ・マツモトの上演の観客はダランたちのほか、女性歌手、文化人、大学や高校の教師たち、またワヤン制作者、スルタン王宮やパク・アラマン王宮関係者だった。さらにガジャマダ大学哲学科のダマルジャティ・スパジャル教授のようなガジャマダ文化人もこの上演見物に参加していた。
 クトアルジョ(ヨグヤカルタから西方五十六キロ)の年輩のダラン、キ・スタルコ・ハディワチョノは、キ・マツモトの上演を最後まで見て、語った。「いつの日かまたこのような上演があったら、きっと大変有益でしょうね。ジャワのダランたちに眼識やインスピレーションを与えることができますよ」と。また彼は言った。「キ・マツモトにぜひ教わりたいな。とくにあの「まぼろしの城をめざす」上演のように、見物人のイマジネーションをそそることのできる澄み切った雰囲気を創ることについてね」と。
 ムンティラン(ヨグヤカルタから北方十八キロ)の若いダラン、キ・ラディオハルソノは言った。「キ・マツモトは踊りやライティングをうまく織り交ぜて舞台を見事に成功させた」と。「ただ音楽伴奏は録音版で、どうしてライブでなかったんだろう」とも。(ワ、もしすべてライブだったら、プロデューサーはその高い費用の負担に頭を抱えてしまうだろう)。
 とはいえ、レコーディングのシステムによって(音響技術=大和田尚)、おそらくは安価で、より簡単なこと以外に、観客にとっては、例えば相良侑美、内山彰夫の語り、インドネシア語のイメルダ・c・ミヤシタの語りは物語の運びを追うのに、よりはっきり分かり易く聞けたのである。
 ともあれこの上演は一時間半に満たぬほどだったが、見物客からの直接のコメント、またマスメディア(諸新聞、テレビ、ラジオ)のコメントによれば、十分に人を騒がせ、また長い会話の材料を提供したのだった。

物語の運び

 「まぼろしの城をめざす」の物語は、現実ではなくフィクションだが、内容はさりげなく、極端にテンションの高いものでなく、ふつうの事態だ。さらには白黒的肌ざわりは一般の観客がついていきやすかった。
 西條隆弘と熊谷有都によって奏されたトランペットを含め、キ・マツモトと森重行敏により構成された伴奏の音楽は舞台に色彩と重厚さをあたえ、さまざまな専門家からなるヨグヤカルタの見物客に、十分に不思議な感触を与えたのである。
 ジャワのワヤン・クリ上演の側面から見て、全体的には、キ・マツモトの「まぼろしの城をめざす」は、ジャワでのワヤン見物人が望んでいるようなハピー・エンドではないとはいえ、このワヤン大会2005に意味ある内容を与えた。それゆえにこそ、スリ・スルタン・ハマンク・ブウォノ十世はワヤン大会2005閉会式にのぞみ、特にみずからキ・マツモトに表彰状を授与することに同意したのである。    

(ダラン。ガジャマダ大学講師)

ワヤン大会の第二報、ジョクジャからです。
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