近頃のジャワ・ワヤン 

                                         狩野裕美



 私がジャワに住むようになってはや13年目。1996年にSTSI SKAへ留学をし結婚をしたため現在に至っていますが、10年ひとむかし、とはよく言ったもので、96年の頃のワヤンと今のワヤンの違いはあまりにも大きい。
 私は演奏家、シンデン(唄うたい)なので、音楽の方面からいつもみているのだけれども、グンディン といわれる昔からある曲を使わなくなって久しい。
 私が留学した96年頃は田舎のダランも皆、まだグンディンを使っていて、どこへ行っても、誰のワヤンであろうとも、必ず勉強になる、実になる、音楽を勉強しているものにとっては手ごたえのある一晩だった。それだけ、ダランもスルックが豊富だったし、ワヤンの形、がまだまだちゃんと見えていた。だから21時から5時まで、みっちりワヤン、だった。
 それが変わってきたのが2000年過ぎた頃から。私の管轄はSTSIのダラン科が多かったので、それでも他のダランよりはグンディンを使っていたかもしれない。そう、田舎のダランたちのほうが曲を使わなくなり始めたのが早いかもしれない。なぜかというと、有名ダランが目新しいもの、他の人がやっていない舞台、を目指して、チャンポル・サリというガムランとシンセを同時に演奏するジャワ歌謡をワヤンの前、とLimbukan・ ゴロゴロのお遊び場面に取り入れ、それがテレビ放映されるようになったものだから、田舎でも“あの有名ダランの舞台のように!”と、ワヤン開催者も、ダランもこぞって真似をするようになったからである。しかも、その時間が長い、長い。東ジャワはそれが中部ジャワより顕著で、いまだに、長い、長い。ワヤンって、それだけ?って感じである。だから、いまではスルックも長いものはやらないし、ま
たこれも有名ダランの影響だが、イスラムの朝のお祈りの時間を邪魔するから、といって終演時間を5時から4時に切り上げて、これも久しい。だから今ではどこでも4時終演である。
 ついでにお話をしておけば、それでもSTSI卒のダランはナルトサブドの曲を断片的につかったり、ラドランという割合短い形式の曲を使ったりしているのが多い。つまり、今でもまだ一応、グンディンを使っている、ということになる。
 ひどい(?) ダランになるとゴロゴロが3時半に終わり、その30分後にワヤンが終演する。一体、ワヤンの話はどうなっているのでしょうか。どうでもいいんでしょうねぇ…じゃ、ワヤンって、なんなんでしょうか…ワヤンの形をしていながら、ワヤンではない、いやでもまだワヤンである。
 そして、やはり99年、2000年頃から、シンデンがダランの横にずらっと観客の方を向いて座るポジションが定着。いまではナルトサブドの時代のようにダランの方を向いて座るなんてことは、ほとんどありえない。シンデンは“パンダ”、見世物、である。
 そうそう、最近の傾向として漫才師を使うことが多くなってきた。以前はチャンポルサリの歌手だったり、クロンチョンの歌手だったり、要はLimbukan, ゴロゴロは歌を聞かせる時間だったが、今は漫才を聞かせる時間に。シンデンも漫才の能力が望まれる。
 と、ここまで書くと、じゃぁなに、あなたもワヤンの舞台で漫才やってるの?と聞きたい方が大勢いらっしゃることでしょう。
 私はここで本当のことを言っちゃうと、漫才は面倒なんです。そんなことをやりにこんな暑い国に来たわけではない。シンデンは漫才師ではない。それから、シンデンの漫才は面白くない。間、とか、声質、とか。やはり、その道はその道なりだと思う。
 でも、こういうことを言うとこちらの人は“だって、売れるためじゃない!”と言う。
 確かに、お金のことを考えるとシビアなものがこちらにはあって、理想論は通らない
部分が大いにある。
 だからこそ、有名ダランはそれぞれ、自分達が演じるワヤンの舞台がどれほど影響するものなのか、売れながらにして、徐々に矯正していってほしい、とちっちゃく心の中で思っている。

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