日本味のワヤン・クリ

                                         (ムラピ紙=ジョクジャで急伸の新聞、09・07・01、c-1-m)



6月29日(月)夜、ベテン・フレデブル会場の《ヨグヤカルタ芸能フェスティバル2009》ワヤン大会における日本ワヤン協会の上演は、あきらかに大勢の観客の注目を吸い寄せることに成功した。それに観客の多くは、その夜のダランをつとめた者が、松本亮という名の日本国籍をもつ人物だとは思いもしなかったろう。
 というのも、まさしく日本ワヤン協会はジャワの大地本来のワヤン・クリを提示したのである。異なっていたのは、物語の展開と音楽であった。この舞台のステージマネージャーでもあり大会実行委員長のヌルサットウィカは、「ワヤン協会の上演はこの地のワヤン・クリとまずは同じだ。少し違っているのは、音楽、言葉、物語構成、その他の補助効果の使用だけである」と、ムラピ紙の記者に語った。
 さらにヌルサットウィカは、日本ワヤン協会のワヤンはインドネシアのワヤン・クリと変わらないと説明した。ここで使っているワヤン・キョウカイの呼称は、日本ワヤン協会と名付けられたワヤン・ジュパンの集合体をさす。わかりやすくするためにワヤン・キョウカイの名が使われているだけだ。「日本ワヤン協会はインドネシアのプパディ(ダラン全体の集合体)に似ている。一方、松本氏はすでに40年もワヤンやその上演方法を学んでいる。いま使用しているワヤンはすべて彼自身の息のかかったもので、その中にはワヤン芸術に熱意をこめるスカスマン氏から買われたものもある」と、ジョクジャ州政府文化担当官でもある同氏がつけ加えた。
 この上演において、松本亮は多くのアシスタントにサポートされた。塩野、狩野、中村らである。【舞踊のウラン、日本人形をつかったYUKI】、そしてグンディンのリズムにのリかずかずのトゥンバンや日本の歌をうたいあげたソロ在住のプシンデン狩野裕美もいた。登場人物たちを導く台詞については、【ジャワでの創作ワヤンであるワヤン・サンドサやワヤン・ウクルなどでもそうだが】、ダランは自分で語ることはなく、その脚本はHMムスタム+松本訳のインドネシア語と、部分的な日本語で、それは複数のナレーター【エレンとエンドロ、相良と内山】によリ語られた。
 一方、音楽においてはB・リスティオノ、J・ダルヤント、ギヨノによってリードされたクンダン音楽とともに、森重、中辻、小谷、小林によるディスク・ジョッキーで使用されるような現代音楽で構成されていた。【音響技術=大和田、照明=熊谷】松本によって展開されたラコン「サムドラ、サムドラ!」は彼自身の創作の成果である。
ワヤン世界ではふつうテジョマントリの名で知られるトゴグの心の不安を語っている。いつもタナ・サブラン(海の向こうの国)の王に仕えるこの道化は凝視している、なぜ自分自身や弟のスマルがともにこの下界に落とされたのか。二人はともに天界に生きる権利を持つサンヒヤン・トゥンガルの息子であるのに? 一方、もうひとりの弟バトロ・グルがなぜ神々の王として、うま味のある椅子に座しているのか。
 諸国放浪のうちに、トゴグはさまざまな人物と出会う。ジン(亡霊)をはじめ、けものたち、さらにはすべてのものの答えを知る神にさえも。トゴグは彼に養育された”年下”の者たちより幾世代もより長く生きねばならぬ神の子としての運命を思い、いよいよ不安な気分である。
 松本亮は観客たちに、《裕福な》家庭に生まれたものが必ずしも幸福を手に入れるとは限らない。それどころか注意不足から、降りかかる悲惨に見舞われるかもね、とイメージさせようとしているかのようだ。                   

     (R)

ゴロゴロ通信60
フロント・ページ 
日本ワヤン協会、
ヨグヤカルタ芸能フェスティバル2009に登場する
日本味のワヤン・クリ
近頃のジャワ・ワヤン 狩野裕美
“ワヤン・ジャワ、語り集成“ を前にして 狩野裕美
ラ・ママ上演二十五周年と「ワヤン・ジャワ、語り集成ーマハーバーラタ編ー」 中辻正
新刊絵本「ノントン・ワヤン!」「スマントリとスコスノ」 杉田浩庸

ゴロゴロ通信 On Line版 contents






日本ワヤン協会


東京都世田谷区上北沢4-30-10-707
tel&fax 03-3303-6063
E-mai: banuwati@kt.rim.or.jp


Nihon Wayang Kyokai Home Page