シンデン・ジュパンと日本ワヤン協会のソロ、マンクヌガラン公演    

                                    狩野裕美



 今回の“まぼろしの城をめざす”ソロ公演では、なんと私はステージ・マネージャーということになり、驚き、あわてふためきもしましたが、嬉しく楽しく公演づくりに参加させて頂きました。で、ソロに住み続け、シンデンばっかりやっている私がなにをしたのか、と申しますと、なんと西洋音階の日本歌曲を歌ってしまったのでした。やれやれ。こうなった経緯というのも、松本亮さんが“何かね、生の楽器をやってほしいんですよ”とおっしゃるので、ジャワガムランを演奏家として続けながら、コラボレーションなど新しい分野にも積極的に関わっている演奏家なら、日本ワヤン協会の東京公演のビデオを観て、何をどう足していくと良いのか見当がつくのでは、と3人くらい集めて自由にやってもらおう、としたところ、その中のひとりが、この演目を26の場面に分け、ここそこで、ヒロミが日本語で日本の歌をうたうように、と指示するのです。
 あれ、どうしたもんでしょうね? やはり音楽をやっている者として、いわゆる音階・音高の差異というものを考えないわけはないのです。日本語の歌、ということは歌詞がある故どうしても歌自体に意味を持ち、それが物語と関連しあってくるのは必須。しかも、この物語の筋上、民謡はぜんぜん合わない。合うものは直感で“浜辺の歌”。しかし、私が歌曲を歌っても、どうしたってガムラン音階にしかならないわけです。そうなると聞きづらくないだろうか。    ひそかなブーイングが…?その音楽(歌)のもつ味は?しかし、その指示者は、“いいんだよ、それで”。この物語のテーマが世界の融合、でもあるようなので、ま、やってみようか、とあいなったわけです。
 実際に歌ってみて、やはり発声法というものは、その音楽の持つ特徴なのだなと感じないわけにはいきませんでした。ですから、西洋音楽歌曲をかじったことのある者として、歌曲の発声法をちょっとまぜながらやりましたが、わりと大変だった…です。録音を聞きましたが、まったく、ガムラン音階の“浜辺の歌”でした。新しい試み?
 いえ、偶然的に。
 さて、そんな話はともかく、公演はインドネシア人にとっても、面白いものだったようです。後日、キ・マンタプが話されていました、“あの公演は賢い者(orang pintar)のためのもので、決してばか者(orang bodo)のためのものではない”というご意見に、私は様々な側面から考えても非常に賛成です。
 また、“ジャワのワヤンの精神・魂が、日本のワヤンになって現れた”という感想をもらしたジャワ人もいます。音楽を手伝って下さった3人の若い音楽家たちは、口々に“この公演に参加できたことを大変に感謝し、嬉しく、誇りに思っている”と話してくれた他に“これはジャワのワヤンなら、デウォ・ルチだ”というキ・マンタプと同意見が出ていました。
 アジアの芸能は一筋縄でいかないものがあり、そこが魅力となって人々を引き付けてやまないのでしょう。一見、今までの話と関係ない場面展開、挿入があり、初めてそれらを目の当たりにした人にとっては、煙にまかれた感さえあります。しかし、だからこそ、そこからアジアの芸能を知る旅が始まることも、あるでしょう。
 そういった見解から単純比較させていただければ、インドネシアで公演をされた方が、より、理解できる人口が圧倒的に多いことは確かだろうと思います。ただし、観客を(良い意味で)選ぶものでもあるでしょう。それは日本で公演をしても、どこでしても同じことがいえると思います。
 あと、付け加えれば、ナレーションが日本語とインドネシア語が混ざり、聞こえにくかったのは、それらを別々にとっておいた代物が“おなくなりになった”(大和田尚氏談)そうなので、それは残念でしたが、あらすじをインドネシア語で書いたパンフレットを配ってありますし、日本語だけで上演されても、味があるものだったのではないでしょうか。
 ともあれ、公演成功、そして松本氏+日本ワヤン協会の益々のご発展に、乾杯!


マンクヌゴロ王宮プランウダナンの間での影絵詩劇上演
「まぼろしの城をめざす」=7月25日(水)
そしてソロ、ジョクジャ周辺の風情について……
 小報告(松本亮)
「まぼろしの城をめざす」見物の実況報告(チュ・ストヨ)
ダラン・ジュパンが魅惑を撒布するとき……
(ルトフィヤ/ソロポス紙、2007/07/27)
ソロ・プランウダナンの一夜           (宮代厚子)
初ジャワ旅行(吉上智子)
ラ・ママ初出演と、マンクヌゴロ王宮公演(中村深樹)






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