観客の観たまま、聞いたまま

—ンダラム・ユドニン・ラタン公演が終わって—

塩野 茂 



今年のジョグジャ州政府招聘公演の演目は、企画の都合から去年に引き続いて影絵詩劇「Samudera Samudera」の再演だった。そのせいか公演終了後も少し心のゆとりがあったので、インドネシア語の勉強も兼ねて、私がお呼びしたインドネシア人と日本人の方々にインタビューし、Wayang Jepangについての感想や意見を聞いてみた。10人位のインタビューだったが、インタビューというものはかなり日数もかかり、学校の合間をぬってのことなので気がつけば8月も終わってしまい、いつもどおりのバタバタ記事しか書けませんが、現地Jogjaからの後日報告ということでご一読ください。

 インタビュ−した人たちはほとんど若い人たちで、初めてワヤンを見た人やインドネシア人でもあまりワヤンを見たことのない人が多かった。
まずインドネシアの人たち、その感想はおおよそこんな風だった。
—ジャワ人には当たり前のワヤン、でも、なぜ日本人がやるのか。そんな戸惑いもあったようだが、「とても印象的だった」、「革新的、創造的で、活き活きしている」、「全体が絵画的で現代的」、「ジャワのワヤンとはまったく違う」という声が共通している。
—ジャワのワヤンにはない人形が注目を浴び、踊り子の舞いと影の演出、世界中の音楽、デジタル処理された音響演出など演出のほぼすべてが前向きに受け止められている。踊り子の影の演出と、最後の青い海の舞いは大勢の観客の目を奪ったようだ。
具体的なコメントとしては、「Wayang Jepangには現代世界があり、そこにはメッセージや人生の哲学がある」、「このワヤンは人生の意味を伝えようとしている」などの思想的な面のほか、「バイクや鮫などのワヤン人形やさまざまな色の照明演出がとてもユニーク」、「音楽もガムランのように眠くならなくていい」、「上演時間が短くて楽しめた」、「ジャワのワヤンには観客とのインタラクティブな交流(ダランとプシンデンとのかけあいやダランと観客とのかけあいのこと)があるが、Wayang Jepangにはそれがない」、「日本語とインドネシア語の語りは、物語の流れの中で話題が飛ぶので内容が分かりにくかった。翻訳の表現に工夫が欲しい。声優は声の使い分けをした方がいい。2人とも声が同じようで、しゃべっている人形がどれなのか分らない。だから展開が分かりにくい。」 それから、「要約を配って、我々にも分かりやすくしてほしい。」(これは受け付けで解説リーフが全員配布されなかったものらしい。)このほかに、「これは外国人(インドネシア人と日本人以外の意味)にも見せた方がいい。その価値がある。」などなど。
私の心に残った一言は、「インドネシア人としては少し悲しい。日本人はワヤンが好きなのに、若いインドネシア人はあまり好きではない。国家のソフトパワーという考え方もあるのに、インドネシアの文化はこれでいいのかと考えてしまう。」
—ジョグジャ州政府がこのヌサンタラワヤンの企画に、毎年、日本ワヤン協会を招いていることについて尋ねると、「インドネシアの文化創造のためにWayang Jepangを高く評価しているからではないか。」、「Jogjaと京都など国の文化的価値の共通性を認識しているのではないか。もちろんWang Jepangを十分評価しているからだと思う。」こんなうれしい言葉が何人かの人の口をついて出た。
 
かたや、若い日本人の面々はと言えば、「クリルの影に一番ひかれた。光の揺らぎ、色の濃淡、色調の違い。エロスを感じた。場イメージは熱い砂漠かな。踊りの影が不思議で千手観音のよう。」あるISI Jogjaの留学生は、「色の演出が効果的で音楽の多様性が楽しい。物語がオリジナルでいい、インドネシア人もそれを求めているのでは。惜しいのは生語りでないので即興性がなく、後半のブトログルとスマルの論争もダレてしまう。」インドネシア語堪能な大学院生は、「影と音楽が印象的だった。物語の内容が分かりにくかった。語りはインドネシア語か日本語のどちらか一つの方がいいのではないか。このくらいの長さなら飽きないと思う。」と、まあ、こんな具合でした。
私が通う語学学校の校長さんにインタビューの最後にこう聞いてみました。
「また来年お呼びしたら来てくれますか?」
「Pasti ya!」(きっと、ね)

公演スタッフの皆さん、お疲れさまでした。私もやっと落ち着いて、いっこうに憶えようとしてくれないボケ頭を夜毎嘆きながら、インドネシア語の勉強にいそしんでいます。

           

Tgl.02 Sep 2010 日本ワヤン協会会員 塩野 茂

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