トゴグ、ぼうずと出会う

(コンパス紙、芸術欄。2010/08/22。イレネ・s+イダ・s)


 さてと、トゴグは自分だけの利益を求める権力者たちのモラルを見ていらいらしているのさ。やつらはもはや貧乏人について考えようとしない。民衆はついには犠牲になる。つねに権力者たちへの怖れでいっぱいだ。
 スマルやブトログルに対してではなく、トゴグはまさに日本の王に対して、そのいらだちを表明している。ぼうず、これはサクラの国のある王の名で、彼はトゴグ老人のいらだちの言葉をきっちり受けとめることもする。ぼうずはトゴグを馬鹿者といい、民衆はそれなりに王を恐れる。王の仕事は命令することであり、その地位は大変高く、民衆の住む汚れた大地は踏むこともない。うかつにもトゴグの忠告を聞き、心を傷つけられた王はトゴグを追放する。
 トゴグがぼうずに会うというユニークな物語は「サムドラ、サムドラ!」(海だ、海だよう!=海が見たい)のタイトルをもつ日本ワヤン協会の作品のひとつで、これは去る7月最後の火曜日、ジョクジャカルタのンダルム・ユダニングラタンで上演された。この舞台は、ジョクジャカルタ特別州政府文化局主催によるグラル・ラガム・ワヤン、2010・07・26〜30大会の一夜だった。
 日本ワヤン協会は東京在住のリョウ・マツモトらにより創立されたもので、マツモトはこの上演のダランであり、ワヤン・プルウォ(古典ワヤン)の諸人物をもとにしたさまざまな物語を書いてきた。「この物語は私自身で展開させたものですが、ジャワのワヤンの物語をもとにしています」と、ジャワのワヤンについて多くの日本語の本を書いてきたこの人はいう。
 グラル・ラガム・ワヤン(様々なワヤンの上演の意)は、まさしく様々にユニークなワヤンを上演しており、それらの物語は(伝統的)ワヤン・クリの舞台では出会えない。日本ワヤン協会の「トゴグ、ぼうずと出会う」以外に、この大会はワヤン・ワフユにおけるイエスの物語、ワヤン・ヒプ・ホプにおけるエルピジ・ガスこんろの悲劇、またチルボンのワヤン・ゴレ・チュパではチルボン王子の結婚話などを上演している。ほかにロンボク島のワヤン・ササクもあり、全部で今年は五種類のワヤンが上演された。

精神力と創造力

 この大会ではワヤンを発展させ続けてきたワヤン作者たちの精神力と創造力が感じられた。たとえば、マツモトはワヤン・クリの舞台を整理し、国際的視野でもって魅了した。
 彼はトゴグやビルン、またブトログルを日本やフランスなどのさまざまな人物たちと出会わせる。ワヤンを通じて、マツモトはしばしば国際紛争の引き金をひく国や文化の国境線を無くしたいのである。「ワヤンを通じて、私はすべての人間が平等であることを証明したいのだ」と、彼は語る。
 マツモトはまた現代的上演手法でもって、ワヤン・クリ舞台の芸術的側面を進展させる。日本ワヤン協会の上演は舞台をいよいよ楽しくさせる。とくべつな声優や照明を使用している。このワヤンは、三人のダラン、つまり一人の主役ダランと二人のアシスタン・ダランによって演じられる。ダランの声は前もって録音された声に代えられていて、その対話のインドネシアの声優たちの録音の声は、ジャワ語やインドネシア語を流暢に使うわけでもないダランを助けている。
 ワヤン・ヒプ・ホプについて、ダランのキ・チャトゥルはいう(以下5行、略)
 ジョクジャカルタ州政府文化部門伝統芸術局長のヌルサトウィカはいう。このラガム・ワヤンに示された意図は、去る2005年のジョクジャカルタ・ワヤン大会にさいし提出した。「このときダラン、キ・ウントゥスはワヤン・クリ・ライ・ウオン(人間の顔)を紹介した。また自分自身のワヤンを開発した他の大会参加者もいた」と彼は語った。
 グラル・ラガム・ワヤンは一年に一度開催されている。選ばれる参加者はジョクジャカルタ特別州からも他の地域からもあるが、いずれも伝統的なワヤン以外のワヤンを展開しているダランたちである。プログラムは公衆に、さまざまな種類のワヤンを紹介するために上演される。「私たちはワヤン・クリ以外のさまざまな種類のワヤンをえらぶ」と、このプログラムの責任者であるヌルサトウィカは語った。
 ヌルサトウィカは、このプログラムで上演されたワヤンは、まさしくワヤン・プルウォのパクム(古典ワヤンの筋書きの意)とは違う、という。彼によれば、ワヤン・プルウォはすでに独自の部屋をもっている。だからコンテンポラリー・ワヤンの展開は、ワヤン・プルウォの永遠性とは相反しない。「このプログラムを開催する以前、私たちはインドネシア・ダラン連合(プパディ)と長老ダランたちに通知した。原則的には、私たちはワヤンにおける現代化要素を紹介したいのです」と、彼は語った。
 ジョクジャカルタ特別州政府の文化部門芸術局長のエニ・レスタリはいう。インドネシアはさまざまなワヤンが豊富な国です。全部で四〇種を超すでしょう。グラル・ラガム・ワヤンの開催は、さまざまなワヤンに対し多くの人々の関心がより強く喚起されるよう望まれてのことなのです、と。                   

( R M)

( R. M )(文筆業)

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