昨年の6月に渋谷のラママ徹夜公演でワヤン・クリの実演を初めて観た。 それから、今回で5度目となるワヤン観劇。数えてみると意外に機会があったことに改めて驚いた。クリの細かい透かし彫りや目にも鮮やかな極彩色の彩色を見ているだけで十分と思えるほど美しい人形達が、ダランの力によって幻想的な影の世界を作り出す。いつも東京家政大学博物館で展示されている人形を見ているのとはまた違い、何度観てもため息がでてしまうほどだ。早く観たい!と、開演前から気持ちがはやる。
先日の日暮里サニーホールでの公演は、開演15分前というぎりぎりに到着すると、すでに席はほとんど埋まっていた。そのため空いている席がないか見渡し、影側と人形側の両方を楽しもうと前方の通路横の席を選び、落ち着いたところで手元のチラシに目を通すと、踊りという演出があるらしい。
ワヤン・トペンやワヤン・オランなどの人が演じるワヤンもあるということは聞いていたが、“g人形と人l“それぞれ独立した演目と考えていたため、今までにない演出に期待が膨らんだ。B
開演前まで長く感じていた時間は、チラシを何度も読んでいるうちに過ぎ、いつもと違った、しかしどこかで耳にしたことのある音色と共に、ゆらゆらと影が動き出した。今回の演目『野獣、恋のバラード』は、基となっている話を読んだことがあるためか、ワヤンを詳しく知らない私の耳にも言葉がすんなりと入ってきた。気になっていた踊りは、舞台の中心に鏡のようなものが設置されているのだろうか、影の半分が突然姿を消してしまったり、腕がシンメトリーのように中心から現れたり。その不思議な演出に本当に人の影なのだろうかと思わせるような感覚にとらわれ、揺らめく影に引き込まれていった。また、セロハンを使って舞台全体を色づけ、場面をさらに華やかに激しく演出されていたり、和風に制作された人形などの新しい様式に、1時間半という時間は、影の作り出すゆっくりとした空間とは裏腹にとても短く、実演が終了してから自分が一度も人形側からみていなかったことに気が付いた。B
今回は日本の創作ワヤンということで、音楽もすべて日本の楽器のみの演奏だったと知り、さらに感動を覚えた。
初めてワヤンを観劇したころは、人形は大丈夫かと心配になりつつも激しい動きのある場面に惹かれていたが、観劇を重ねていくにつれてゆったりとした影の揺らめきや音楽など、違う視点や楽しみ方ができるようになった。そしてなにより、ワヤンそのものに新しい風が送り込まれているという発見があった。
そんな発見に少し名残惜しさを残しつつも、また次回観劇するときの楽しみが出来た!と、幻想の世界から現実へ静かに戻ってきた。
(博物館学芸員)
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