水のおんな《プトリ・ジャディジャディアン》

                                     チュ・ストヨ



 「国際人形劇フェスティバル2006」はインドネシア各地また若干の国外からのダランの参加を得て開催されるはずだった。しかし5月17日の大地震に関連して、スリ・スルタン・ハメンク・ブウォノ十世の指示により、名称も「国際人形劇チャリティ大会」と変更され、その収益(大部分がスポンサー諸会社の寄付)もヨグヤカルタ並びに中部ジャワの被災者の救済用に当てられることになる。結果として海外からの参加は日本ワヤン協会だけとなった。

 日本ワヤン協会

 インドネシアのワヤンをふくめ、ソロと並んで、ジャワ文化の中心都市であるこのヨグヤカルタでの日本ワヤン協会のワヤン・クリ上演は昨年に続き、二度目である。(このあと、日本ワヤン協会はおなじ演目をソロで上演した)。この演目はキ・マツモト・リョウの創作で、その内容はモラルの深い意味やメッセージに満ちている。
 舞台に上る前、キ・ダランは州知事またヨグヤカルタ・ハディニングラットの王としてのスリ・スルタン・ハメンク・ブウォノ十世から、スマルのワヤンを象徴として受けとった。(残念ながら当日スリ・スルタンは大統領の召喚でジャカルタにいて、その役は代人にまかされた)。こうして夜8時すぎに始まったこの演目は、モラルの教えに満ちて、この時期のインドネシア、とくにヨグヤカルタの社会情況にぴったりだった。つまり日本ワヤン協会の公演はヨグヤカルタのジャワ・ワヤン社会にある種の雰囲気やインスピレーションを与えたのだ。《水のおんな》上演をみるチャンスをえたダランたちから成る多くの見物人は、ここにワヤンにおける革新的変化を見つけたと感じたのだ。ジャワまたインドネシアの他の地域の伝統的ワヤンの世界は、いま、いかに一個の演目をより魅力ある新しいかたちに整理しうるかの見本を取得する必要があるのだが、なお伝統的古典の枠のうちに止まっているのである。
 キ・マツモトはこの作品を生命感溢れるものにしており、たとえば踊り手(日本からの踊り手ならなおよかったろうに)使用や場面転換などで、思いきった即興的資質をみせるのだ。キ・マツモトは、空間と時間の処理に抜群のうまさを見せる。どの場面、どの対話でも観客に受け、いつも拍手をうける。逆に真剣な場面では、観客たちはこころからその場面を味わうのである。

 音楽伴奏

 前奏曲として日本の古典音楽、琵琶の伴奏を取り入れたキ・マツモトのワヤンは、観客の最高の関心と集中力を引き寄せることに成功した。その伴奏の琵琶は、一個の楽器に過ぎないとはいえ、ヨグヤカルタのワヤンの観客にとってははじめて耳にするものであり、明らかにこの一個の楽器の音質は野外会場というワヤン上演の空間を十全に満たした。作品全体の伴奏音楽は、日本やその他の国の音楽もまじえ、さまざまな場面にぴったりに聞こえた。音響効果も照明もすべてを活きいきとかんじさせたのである。

 観客のプロフィル

 《水のおんな》上演の観客はさまざまな専門家から成っていた。まずはヨグヤカルタ特別州政府の指導者、州議会議員、またワヤン関係者たち(ダラン、女性歌手、ガムラン奏者)、クラトン関係者、さらには諸大学の教師、学生たちである。また野外会場という関係から町の多くの一般の人たちやベチャの運転手にいたるまで、この公演を観ていたのである。全くの混交の情況、まずはさまざまな専門家から成る見物人だったのである。
 ヨグヤカルタの多くのマスコミ、コンパス紙、クダウラタン・ラクヤト紙も大きく採り上げ、TVRIやINDOSIARなどのテレビ局も国内ニュースで放映した。7月23日「チャリティ大会」のオープニング・ワヤンとして、午後8時10分に開始された《水のおんな》は、9時30分ぴったりに終了した。大成功だった。

     (ダラン、ガジャマダ大学講師)

ジョクジャ・ソロ両古都での公演を終えて(松本亮)
《水のおんな》人生を映す(ソロポス紙、2006年7月28日)
往く川の水(芹澤薫)
プンドポの夢 ―再びウィジョヨクスモに―(塩野 茂)
二〇〇六年ワヤン大会に参加して(杉田浩庸)

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