十一月末は、ワヤンがらみで二つのイベントに関わることとなった。
ひとつは、「アーバンドック ららぽーと豊洲」内の「キッザニア東京」で、「キッザニア・ジャカルタ」オープンに併せて催された、インドネシアフェアへの参加であった。
十一月二十五日から三十日、午後一時から夜九時まで、平日開催であったから、時間の都合のつけられる者として、松本先生曰く「あなたしか思い浮かばなかったんだよね」ということとなったのである。
「キッザニア東京」とは、こども達が好きな仕事にチャレンジし、楽しみながら社会の仕組みを学ぶことをコンセプトとした、一種のテーマパークである。七十種類に及ぶ仕事が設定され、道具からユニフォームにいたるまで本物そっくりに用意され、ここで仕事をこなしたこども達は、専用通貨キッゾをもらい、買い物や習い事に使えるという、いわば実社会疑似体験ゾーンというわけだ。
その園内の片隅、普段はパーティールームに使用されるという場所に、仮設インドネシア大使館が設けられ、インドネシア関連の展示会がなされた。展示品のなかに当然(?)ワヤンも駆り出され(展示されたワヤンは東京家政大学博物館所蔵のクリとゴレ)、どうせなら実演も、とのことで仮設クリルを設置し、デモンストレーションを行うこととなった。基本的には、来館したこども達に展示品の説明をし、要望があれば実演もするということだったが、何しろ園内のこどもたちは各々の仕事に忙しい。仮設インドネシア大使館は仕事場ではなく、見学する所であったから(つまりお金は稼げない)、ここにまで足を運ぶこどもはぼちらぼちらといった感じで、それも一通り館内を見回すとこちらに見向きもせず、さぁ〜っと立ち去ってしまうことがほとんどであった。ちなみにこの展示で最もこども達の興味をそそったのは、ラフレシアの実物大模型であった。こども達の云うには、アニメ「ポケットモンスター」とコンピュータゲーム『どうぶつの森』に、このラフレシアが登場するそうで、この花が世界最大で、しかもとても臭いということも、彼らは既にして知っていた。世の中何がメジャーになるかわからぬものである。
入館してくれるこどもがいなければ、これといってすることも無く、閑古鳥に無聊をかこつ、うらぶれた場末の飲み屋のマダムといった体であったが、それでも何人かはワヤンにも興味を示してくれた。おもしろかったのは、ワヤンに興味をしめしてくれたこども達の、そのほとんどが、一旦腰を据えるとかなりの長時間ずっといることであった。「早くしないと仕事ができなくなるよ」という、親の呼びかけにもかかわらず、もう一回やってくれとせがみ、自分たちもこちらで用意した紙のワヤンをクリルにかざして、楽しそうに影絵にいそしんでいる。彼らはお金(キッゾ)はさっぱり稼げなかったであろうから、「お金持ち」にはなれなかったが、「時間持ち」ではあったのである。忙しがり屋大国日本にも、こういうこども達が何割かはいるのだなぁ、と感慨しきりであった。
もうひとつは、同月二十九日、娘の通う小学校、市川市立新浜小学校、新浜幼稚園合同のPTA行事として行ったワヤン上演会であった。
こちらは「家庭教育学級」という、学校児童の保護者向け文化事業活動の一環として行われた。「文化委員」という役員を任されたので、せっかくだからワヤンをやらせてもらったのだが、日程が先のキッザニアと重なり、いわゆるダブルブッキング状態に陥った。どうしたものかと困りきっていたところ、ワヤン協会の仲間、狩野さんがキッザニアのピンチヒッターを引き受けてくれたので何とか事なきを得た。
上演会の方も松本先生のご厚意で、人形、クリルも準備でき、現場でも大和田さん、松本和枝さんの協力を得ることが出来た。仲間とはありがたいものである。
いわゆるお母さんたち、ワヤンのワの字も知らない方たち向けだったので、あえて現地録音+アテレコ版で「アルジュノの饗宴」を上演をさせてもらった。
やはりこのかたちがワヤン協会の上演活動の原点であり、ワヤン初体験には現地ダランの語りを聴いてもらいたかったからである。四十人ほどのお母さん方(小さい子数人も)に観ていただくことができ、概ね好評のようであった。
「なんだかよくわからなかったが、面白かった」、「一人で操るとは思わなかったのでびっくりした」「人形がとても綺麗だった」等々の感想の中で、やはり「お話の進み方がのんびりしているのねぇ」という声が多かった。そう、ワヤンの第一印象は「のんびり」なのである。つくづくワヤンとは「時間持ち」のための芸能なのだなぁと改めて感じ入った次第である。
(ワヤン協会会員)
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