LAKON

 ワヤンにおいて舞台で上演される物語の一単位。ワヤン・クリ・プルウォのラコンは、夜20時から朝5時30分頃まで上演される物語(=演目)である。上演の依頼者、あるいは見物人の要請によっては上演時間が4時間ほどになることもある。(パクリランPakeliranの項参照)
 ワヤンのラコンは
ラコン・パクム(LakonPakem)とラコン・チャランガン(Carangan)に分けられる。ラコン・パクムとはワヤンの物語の源泉である「マハバラタの書(マハーバーラタ)」もしくは「ラマヤナ(ラーマーヤナ)」に沿ったものであり、パクムと考えられている諸演目(ラコン)は記録されたワヤンの書物、例えばスラット・カンダ(Serat Kanda)あるいはパラマヨガ(Paramayoga)またプストコ・ロジョ・プルウォ(PustakaRaja Purwa)などに基づいたものである。
 一方ラコン・チャランガンとは新しく創作されたワヤンの物語である。とはいえ、それはラコン・パクムの物語を母体としている。ラコン・チャランガンでは時折「マハバラタの書」には見られない新しいワヤンのキャラクターが登場することもある。これらの新しく考案されたキャラクターは、サブランガン(通常は海の彼方の人物)と称され、物語の展開に重要な役割を果たす。
 ラコン・パクムとラコン・チャランガンの他にスムパラン(Sempalan)と呼ばれるラコンもある。ラコン・スムパランは実際にはラコン・チャランガンなのだが、その物語はラコン・パクムの大筋から乖離した傍系の物語である。とはいえ、ラコン・スムパランは大衆によってしばしば正当なラコンとして認められ、ラコン・パクムの一部に組み込まれることもある。ラコン・スムパランの最も著名なもののひとつはプルギウォ・プルギワティである。
 良質のラコン・チャランガンやスムパランは、ワヤンの物語の本流にジャワの哲学を供給するものとして、その貢献度は大きいと言える。1980年代以来、有力政党ゴロンガン・カルヤのためのスムパランを考案するダランも登場した。そのラコンは「ワリンギン・クムバル(双子のガジュマル樹)」である。その物語は国家安寧の(象徴としての)聖なるガジュマル樹に関するものである。ご存知のように、ブリンギン(ガジュマル)の樹はゴロンガン・カルヤのシムボルである。
 ワヤン文化の擁護者の多くが、物語のロジックに一種の『布教活動』を混成させることができるスムパランの物語を評価した。より不徳の(方向へいたれば)、ワヤン芸術の擁護者として上演に望む観客たちは、政治集会の出席者とは異なり、失望することとなる。文化・芸術の保護者の一角を担うと自負する者からは、『布教活動』に勤しむダランはしばしば(文化の)破壊者の印象を持たれることになるだろう。
 ラコン・パクム、チャランガン、スムパランの他に1978年以来有名なものにバンジャラン(Banjaran)がある。この新種のラコンは長い諸ラコンのように物語を順序立てて積み上げることをせず、キ・ダランの創意にそのほとんどを委ねる。それはワヤンの一人物の伝記として構成される物語である。ラコン・バンジャランの先駆者であるダランは、スマラン出身のキ・ナルトサブドである。その最初の上演はジャカルタのSKMブアナ・ミングBuana Mingguである。ブアナ・ミングはラコン、「バンジャラン・クムボカルノ(クムボカルノの生涯)」を、グドゥン・ボラ・バスケット・スナヤンGedung Bola Basket Senayanで上演した。
 ブアナ・ミングによって上演された他のラコン・バンジャランは「バンジャラン・スンクニ」、「バンジャラン・バスカルノ」、「バンジャラン・ビスモ」などである。キ・ナルトサブドの他にラコン・バンジャラン創作の代表的ダランとしてはキ・ティムブル・ハディプライトノ・チュルモマンゴロTimbul Hadiprayitno Cermomanggoloがいる。1990年代バンジャランの諸演目はワヤン愛好家の間でわりと歓迎された。
 上演に際してのラコンの選抜は、その時行われる儀式の次第の主要目的に沿って行われる。
 結婚の儀式においては上演者はバラタユダものは選ばないだろう。そのラコンは結婚というものの目指す人生における和睦、幸福、安寧といった祈念とそぐわないからである。
 以下に儀式とラコン選びの例を挙げる。
a.結婚 Perkawinan
 通常選ばれるラコンは「パルト・クロモPartaKrama」即ちアルジュノとデウィ・スバドゥラ(スムボドロ)の結婚の物語である。あるいは「ジョロドロ・ラビJaradaraRabi」、コクロソノ(ボロデウォ)とデウィ・エロワティの結婚、また「ノロヨノ・マリンNarayanaMaling」、クレスノとデウィ・ルクミニの結婚などである。
b. 妊娠の祝い Tingkeban
 このヌジュ・ブラニンnujuhbulanin(Bhs. Betawi)の儀式で通常上演されるラコンは、「ライリプン・プルマディ Lairipun Permadi(プルマディの誕生)」「Lairipun Lara Ireng(ロロ・イルンの誕生)」「ライリプン・ガトゥコチョLairipunGatotkaca(ガトゥコチョの誕生)」などワヤンの登場人物たちの誕生に関する諸演目である。
c. プパック・プスル Pupak Puser(真ん中の歯が生え変わること)
 ここでもティンクバン tinkebanの儀式と同じようにワヤンの登場人物の誕生の物語が選ばれる。記録によれば、プパック・プスルの饗宴の儀式の習慣はスラカルタとその周辺でのみ有名である。
d. キタナン Khitanan,Chitanan(割礼の儀式)
 幾つかの地域で、この儀式はスナタン Sunatanと呼ばれる。この儀式で選ばれるラコンは通常クサトリアが女性を獲得するための戦いを描く物語である。例えば、「ノロヨノ・マリン Narayana Maling(盗賊ノロヨノ)」や「アラプ・アラパン・デウィ・スルティカンティ Alap-alapan Surtikanti(スルティカンティ略奪)」など。
e.誓願の儀式 Kaulan
カウランの儀式は願掛けする人が行う儀式である。例えば一族の人の病気快癒、あるいはまた子供の試験合格願いなどである。感謝 syukuranの儀式を行う者とほとんど同様の祝典を行う。選ばれるラコンは「パルト・デウォ Parta Dewa」「アルジュノの饗宴 Arjuna Wiwaha」そして時折「ペトル王になる Petruk Dadi Ratu」である。
f. ブルシ・デサ Bersih Desa(村の大掃除)
 共同体で支出する儀式で共通の祈願を行う。通常は収穫の後に行われる。選ばれるラコンは「デウィ・スリの帰還 Dewi Sri Mantuk」「ミククハンMikukuhan」あるいは「パリクナンParikenan」である。
g. ルワタン
 選ばれるラコンは「ムルウォコロMurwakala」である。

ラコンの総数
 一つのラコンは常に幾つかのヴァージョンに展開するので、ラコンの総数を数えるのは困難である。とはいえ上演可能なワヤン・クリ・プルウォのラコンとして記録されているラコンは、その総数177演目とされる。
 その総数は、神々の物語が7演目、ロコポロ、ハルジュノソスロバウ時代を扱うものが5演目、ラマヤナ演目群が18、そして残りがマハバラタ物語に関する147演目である。
 この総数には1980年代以来ダランたちに多く創作されたバンジャランの諸演目は含まれていない。
 その他ジャワ人社会では、ラコンの語は3つの意味を持つ
 その第一は、ラコンとは上演される物語における重要人物を示している。この考えによれば、次のような質問が発せられるだろう。「Lakone Sapa? (誰のラコン?)」。つまり、(その演目における)一番重要な人物は誰か、ということだ。
 二つ目は、ラコンとは物語の意味である。この考えによれば、次のような質問が発せられるだろう。「Lakone kepriye(kepriwe)? (どんなラコン?)」。つまり、物語の展開はどんなものか、ということだ。
 三つ目では、ラコンとは上演される物語のレパートリーを示す。この考えによれば、次のような質問が発せられるだろう。「Lakone apa? 、Lakonnya apa?(何のラコン?)」。

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