 ワヤンの物語は数百の演目（ラコンと呼ばれる）を通して語られる。 ひとつの演目は一夜を徹してほぼ六時間から八時間かかる物語を指す。
ワヤンは基本的にはダラン（人形遣い・語り部）の即興によって語られる。 それゆえ、各演目の構成・語られる物語の範囲も常に変化し、
極端に言えば今日と明日では、同じ演目でもその内包する物語は全く異なることも多々あるのだ。
ダランそれぞれの解釈もまた大いに異なる。 ここに記される物語群も、その大筋はほぼ同じとしても
細かい設定や、エピソードの挿入等はダラン各々の恣意に大いに左右される。 ここでは、各物語群の大略を述べるに止める。
ワヤンの物語は、五つの物語群に大別される。
1.ロコポロ LOKAPALA
2.ハルジュノソスロバフ HARJUNASASURABAHU
3.ロモ RAMA
4.マハバラタ MAHABARATA
5.神々の物語 CERITA DEWA
1. ロコポロ
魔王ラウォノ（インドでのラーヴァナ）の出生とその一族にまつわる物語群。ほぼ4つの演目に展開する。
ロコポロ国王ドノロジョはアルンコ国の王女スケシとの結婚を願ったが、スケシはイルム・サストロ・ジェンドロ・ユニングラト（インドロ神に由来する、大地の安全もしくは幸福への永劫の努力に関する英知）を解明し得た者とでなければ結婚しないという。自信のないドノロジョは、父親であり高徳の僧でもあるブガワン・ウィスロウォを自身の代理としてたて、スケシを手に入れてくれるよう要請する。
ウィスロウォとスケシの間にイルムに関する問答が始まる。このとき、人間によるイルムの解明を良しとしない宇宙支配の神ブトロ・グル（インドにおけるシヴァ）とその妻ドゥルゴ（ドゥルガー）が二人の魂に入り込みウィスロウォとスケシは情欲にまみれ、結婚するに至る。
怒ったドノロジョはアルンコ国に攻め入り、父を殺害しようとする。グルの代行神ナロドが飛来し、ドノロジョを押し止める。ことの原因はグルとドゥルゴの行為にこそあり、その行為は承認されるべきものではないが、生じた結果を元に戻すことはできない、との言葉にドノロジョは父と和解する。
ウィスロウォとスケシの聖性をもってしても、因果を払拭することは叶わず、二人の間に生まれた4人の子供のうち、3人がラクササ（羅刹）として生まれた。その長兄が魔王ラウォノである。
2. ハルジュノソスロバフ
ラウォノの暴虐は天界までも脅かす。神々は宇宙護持の神ウィスヌ（ヴィシュヌ）に白羽の矢をたてる。かくてウィスヌの化身マエスパティ国王ハルジュノサスロバフが打倒ラウォノを託されることとなる。ここではハルジュノソスロバフとその臣スマントリを中心にほぼ4つに展開する。
スマントリはハルジュノ王に臣従しようとして試練を受ける。その果てにスマントリは、醜悪のラクササながら善意の弟スコスロノを誤って殺害してしまう。弟の呪詛はラウォノの牙に宿り、スマントリを斃す。
3.ラマヤナ
これはインドの叙事詩ラーマーヤナに基づいてほぼ10の演目に展開する。
シント（シータ）と結婚したアヨディオ国の嫡子ロモ（ラーマ）は、継母の奸計により森へ追放される。妻と弟レスモノ（ラクシュマナ）の三人で森を放浪中、シントを見初めたラウォノによってシントは、アルンコ国へ拉致されてしまう。ロモは神猿アノマン（ハヌマン）を含む猿軍と、ラウォノの末弟、善意のウィビソノを味方に得て、大海に架橋し、アルンコへ攻め上る。ラウォノの弟クンボカルノ、息子のインドラジトらの抗戦を打倒、ラウォノを斃し、シントを奪回、ついには王位に復権する。
4.マハバラタ
これはインドの叙事詩マハーバーラタに材を取ってはいるものの、完全なジャワ化を果たし、ジャワ独自のエピソードも膨大な数に達する。
基本的な演目だけでも200を超え、その全貌は容易には把握しえない程のものとなっている。
その根幹をなす物語は、バラタ一族の内紛であり、従兄弟同士であるパンダワ五王子とコラワ百王子の確執から、一族全てを飲み込んでの十八日間に及ぶ大戦争バラタユダへと終結する。
コラワの長兄ドゥルユドノは、ことあるごとにパンダワを憎み、数々の小競り合いの末、骰子賭博によってパンダワの領土と王位を取り上げる。12年の放浪とさらに1年間その身分を誰からも隠しとおすことを条件に国土の返還を約束するが、13年の後、約束は果たされず、ついには一族を二分しての大戦争が惹起される。
5.神々の物語
多くの場合マハバラタの登場人物の遠い祖先とかかわる物語を内包するが、より多く神々自身の問題に比重がおかれるものである。魔除けとして重要な演目"ムルオウォコロ"や"ウィスヌ・クロモ"（ウィスヌの結婚）など20余をかぞえる。
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