国際人形劇チャリティ大会2006(7/23〜26)ソロ・マンクヌゴロ王宮(7/26)での影絵詩劇『水のおんな』上演・小報告

松本亮



 今年2月下旬から準備にかかっていたジョクジャ国際人形劇フェスティバル参加は、5月27日のジョクジャ地方地震で開催が危ぶまれたが、6月20日大会実行委員長ヌルサットウィカさんからの「大地震の沈鬱から立ち直るため、とくに被災を受けたバントゥル地方のダランたち救済募金のため、予定通り大会は開催される。よろしく」とのメールを受け、本格的に始動した。現地の諸状況確認のため松本亮が6月26日から3泊5日でジョクジャ、ソロを往復。
 ここで地震の災害状況をふまえ大会名が、国際人形劇チャリティ大会と変更された
こと、また
 当初決まっていた王宮内での大会開会式『水のおんな』上演会場が、王宮内一部破損のため、ジョクジャ市内中心部のモニュメン・サトゥ・マルットに移ったことを知る。さらに被害の大きかったバントゥル地域で二ヶ所が、上演の場所として選ばれていた。大会の目標変更を企図し、状況を切り替えて大会実行へと踏み入っていった実行委員長の決断がしのばれる。
 ジョクジャでの私たちの上演諸準備はいつもながら、ストヨさん、ムスタムさんのお世話になった。音響技術などに関しては終始大和田尚さんがあれこれ指示を出してくれた。さらにはインドネシアでの上演には土地の人たちに内容を分かってもらえるよう、挿入するインドネシア語に細心の注意を払わねばならないのだ。その訳にはムスタムさん、語りにはイメルダさんの協力をえた。今回はまたとくに琵琶奏者の久保田晶子さんに同行を依頼した。森重行敏さんたちには胡弓、笛その他。これらの和楽器群の伴奏、その独特の音色がジャワの人たちの魂を深く魅了したことはいうまでもない。
 6月末の帰国後スタッフ10名で準備をかさね(すべて自主参加)、7月13日松本が現地での諸準備のため先発した。その直後7月17日、ジョクジャからは少々西よりのスンダ地域南岸だったが、また大地震と津波が発生した。しかしジョクジャ地域の人々の魂の活性化のためと動き続ける大会実行委員会の意志はもはや動揺することはなかった。
 こうして私たちは偶然とはいえ、ジョクジャの地そのもので、現地の大会一員としてチャリティ公演に参加することになったのだが、まさに奇縁としか言いようがない。

◎7月23日(日)、会場=ジョクジャ、三月一日記念堂(モニュメン・サトゥ・マルット)開演=午後八時〜九時半 

 開演に先立ちジョクジャ特別州副知事と大会実行委員長の言葉があり、大会開幕の儀式として副知事から開幕ワヤンのダランとしての松本に対し人形(スマル)授与があり、大会が開始された。招待席とその後ろの正面は満席だった。会場内はびっしり天幕が張られ、柱の部分は飾りの白布でふっくら覆われていた。『水のおんな』終了と同時に同じ場所で、キ・ティムブルのワヤンがはじまったので少々あわただしく、大きな拍手をもらったが、その場では、ゆっくり見物の人たちからの反応を感じとることはできなかった。ただ、ワヤン上演は本来魔除け、鎮魂の祈りに根ざすものであり、その意図はまずは十分に果たせたと思う。
 翌朝と次の日の各紙は真摯な論評でいっぱいだった。KR紙(ジョクジャ最大紙)は大きな私たちの写真(カラー)とともに、「ワヤンは見世物なだけでなく、指標である」の見出しで、ハメンク・ブオノ十世の言葉を引用しながら、ワヤンの本質に言及し、日本ワヤン協会やキ・ティムブルの登場にふれている。ジャワ・ポス紙、コムパス紙にもコメントがあり、東京・朝日新聞の夕刊にも紹介の写真と記事があった。一日おいた25日には、コンパス紙が24x14センチ大のカラーで私たちの舞台を紹介し、「ワヤンにおける自然と魂のハーモニー」と題し、大地震とかかわって今回の大会の初日につき、長文の記事がしるされていた。
 後で聞けば、ジョクジャ地域は地震以後ワヤン上演が一切なかったのだ。それがこの大会を機に立ちあがった。7月29日、私はバントゥル県ガブサン村で、高名な人気ダラン、ジョコ・エダンのワヤンを見ることができた。演目は「スマル・ワフユ」。広場に見物人は二千人を超え、そのほとんどは大地震の被災者ないしはその家族のはずが、きらきら輝く笑顔で、重なり合い、満天の星空のもと、ダランの語り、ガムランの音に魅入られているのだった。

◎7月26日(水)、会場=ソロ、マンクヌゴロ王宮プランウダナン
 開演=午後8時〜9時半

 マンクヌゴロ王宮内のプランウダナンはソロ、ジョクジャを通じワヤン上演の最高の場所である(本来ワヤン上演の場に最高も最低もないのだが、きわめて個人的に言って、松本にとってはそうなのである。しかもここで私はキ・アノム・スロト、キ・マンタプ・スダルソノ、キ・バンバン・スワルノ、また歴代のマンクヌゴロ王家のの重要なダランたちのワヤンを見てきたのだ)。マンクヌゴロ王家は私のジャワないしワヤンその他の諸文化追究に踏みこんだ原点であり、ここでの上演は私の夢以上のもの。これは私としてはマンクヌゴロ王宮への私の表敬・感謝のための上演である。昨年のジョクジャでの大会における影絵詩劇『まぼろしの城をめざす』上演の好評を受け、もし可能なら今年はソロで、プランウダナンでと願っていた。3月、マンクヌゴロ王宮を訪れ、許可をもらった。この旅でジョクジャの国際人形劇フェスティバル実行委員長から出演の招請も受けたのだった。
 ソロ上演の準備ではとくに芹澤薫さんにあれこれ世話になった。ソロ公演もまた、まあうまくいったのではと思う。キ・マンタプ夫妻、そのクンダン奏者パ・ナルト、キ・バンバン・スワルノ、キ・スナルト・シンドゥ、キ・プルボ・アスモロ、キ・スボノその他、錚々たるソロの名士に混じって、竹之内有美子さん夫妻、狩野裕美さん夫妻らも駆け付けてくれた。終わって、キ・マンタプ夫妻のにこやかに嬉しそうな顔、キ・バンバン・スワルノのよかったよかったと両手を固く握りしめてくれた温かさ、薄暗い会場でいつまでもひそやかに語りあっていた人びと、芸大の学生たち、多くのインタビューの記者そしてカメラマン、そのすべての人々のざわめきを今はなつかしく思う。
 テレビ・ニュースで見たと、土地の人々からも声をかけられた。
 一日おいての28日のコンパス紙はカラー写真とともに、『水のおんな』のプランウダナン登場を報じ、スアラ・ムルデカ紙(中部ジャワ最大紙)は見出しに「日本ワヤンのなかのジャワの魂」と記す。またソロポス紙(ソロ最大紙)は、私としてはインドネシアの新聞雑誌で全く初めて見ると思えるのだが、影の側からのワヤンのカラー写真(みごとな撮影だ)を大きく扱い、長文の記事で『水のおんな』をやさしく深く論評している。その大きな見出しは、「ミズノオンナ、人生を映す」だった。

松本 亮

水のおんなスタッフ

Skenario,Sutradara,
Dalang :Ryoh Matsumoto

Asisten :YUKI
      Hironobu Sugita
Narator Bhs Jepang :Yuhmi Sagara
             Akio Uchiyama
Bhs Indonesia :Imelda C.Miyasita
Alih Bahasa :HM.Mustam
Penari :wulan Reknowati
Pembuat wayang :Tadashi Nakatsuji
           Sukasman
           LejarSubroto
           Dll.
Musik :Yukitoshi Morishige
Kokyuh,suling :Yukitoshi Morishige
         Ryuhiti Odani
Biwa :Akiko Kubota
         Dll
Tata Suara,
Video Effekt :Takashi Owada
Tata Cahaya :Masao Huruya
        Tadashi Kumagai
Stage Direktor :Masao Huruya





日本ワヤン協会


東京都世田谷区上北沢4-30-10-707
tel&fax 03-3303-6063
E-mai: banuwati@kt.rim.or.jp


Nihon Wayang Kyokai Home Page