Suluk

スルク、スロ

 ワヤン・クリ・プルウォやワヤン・オランにおいてダランが上演に用いる重要な要素のひとつ。その他あまたのワヤン、またジャワ島以外の地域で上演されるワヤンにおいても同様である。
 スルクとは、場面の継続及び転換において、ダランがラゴン(lagon=歌)形式で繰延べるマントラ(呪文)のような音節を伴った章句のことである。スルクの節回しは学ぶのが容易ではない。というのも、その一部はひじょうに低い音を用い、また他の部分ではひじょうに高い音を用いるからである。(注:その音域がひじょうに広い)
 パンダン・グリトノPandam Guritnoによれば、その著、「ワヤン、インドネシアの文化とパンチャシラ」において、スルクは〈雰囲気を運ぶ歌〉英語で言えばムード・ソングである、とされる。
 スラカルタ・スタイルのワヤン・クリ・プルウォのダランの学識では、およそ40種類のスルクが知られる。スルクは三種類に大別される。パテタンPathetan、スンドンSendhon、オド・オドAda-adaである。
 パテタンは静謐、壮麗、華美といった雰囲気を醸し出すために用いられる。それゆえ、パテタンはルバブRebab、グンデルGender、ガムバンGambang、そしてスリンSulingによって伴奏される。
 スンドンは悲しみやロマンティックな雰囲気を呼び起こすために朗々と歌われる。
 一方オド・オドは雰囲気が急展開する際に用いられ、ドドガンDodogan(ダランが持つ木槌の一種、チュムポロによる打音)とクプラ(クピアまたクチュレとも呼ばれる。コタック〈人形を入れる箱で、ダランのかたわらに置かれる〉側面に吊るされ、シズル的な効果音を出す)で伴奏される。
 スルクは、その全曲が歌われる場合と、一部分のみが歌われる場合、また始めの部分のみが歌われる場合がある。スルク一曲がすべて歌われるものを、スルク・ウォントsuluk wanthaと言い、一部分のみ歌われるものをスルク・ジュゴグsuluk jugog、また短く省略されたものをスルク・チュカックsluk cekakという。
 ワヤン・クリ・プルウォとワヤン・オランで、ダランがスルクを歌う時はグンデルのみが奏される。一方スンダのワヤン・ゴレではスルクが歌われるとガムバンがそれに追奏する。
 また、ワヤン・クリ・プルウォではダランのスタイルが各地域の様式に合わせて異なっていることが知られている。ジャントゥランjanturan(地語り)の「イントロ」の章句やスルクもまた異なる。
 スラカルタ・スタイルでは例えば、「スウ、シュルプ・ドト・ピトノ…Swuh srep data pitana...」で言葉が始まる。
 ジョクジャカルタ・スタイルのダランは「ホン・ウィライン・マストゥ・プルノモ・シドゥム Hong wilaheng mastu purnama sidedm...」と始める。
 一方バニュマス・スタイルではキ・ダランはこのように話す。「ホン・ウィライン・アウィグナム・アストゥ・ナマス・シドゥム Hong wilaheng awignam astu namas sidem...」
 さらにスンダのワヤン・ゴレ・プルウォでは、たくさんの種類のスルクがある。25種の型以上のスルクの旋律と詞章をダランは知らねばならない。以下にワヤン・ゴレ・プルウォ・スンダのスルクを二つ(これはスラカルタ・スタイルのダランも用いる)紹介する。
 "...Ramnya wang pada hanggarjita; tekappira nirmala mangayun ring; trus hunggyaning Sang Supadhi wara; tar len sanggya dwilembana mahagnya..."(Suluk Kloloran)
"...tangdang Sri Baladewa nenggalanira pinusti hing hasta; mungguwing rengganing swandana humangsah prapta hing ranagana; humiyat yitnakura sru wurodakya Patih Pancadnyana; humangsa pagut samya hawahana dwipangga nguda danda..."(Suluk Greget Sahut Nem)
 宮廷の伝統を含む、ジョクジャカルタ・スタイルのワヤンの伝統ではワヤンのスルクは、上演されている雰囲気のみならず登場人物にも一致するよう努力が払われる。つまりスルクが歌われる時の主要人物毎のスルクが用意される。これはスルカン・カウィンSulukanKawin(Kawi)として知られる。
 例えば、プラブ・クレスノ、ビモ、ガトゥコチョ、アルジュノ、アビマニュ、イラワン、スマル、トゴグ、ボロデウォ、スンクニ、ジョヨドロト、スティヤキ、ドソムコ、インドラジト、シティジョその他たくさんの(人物固有の)特別なスルクがある。
 例として、カルノに使用されるスルク・カウィン(カウィ)を以下に記す。
Karna karnalenira mawingis-wingis
mingisaken Kala Deta,
sedeng Karna mateni Karpo
Srikandi madeg suraning driya,
linepasan sanjata,
rinebut dyan Trusajumena, hoong...
 このスルカンSulikanはカルノ(バスカルノ)がカルポを滅ぼす、またバラタユダにおいてスリカンディと対峙したことを物語る。
 この場面はかつて、例えばスラト・バラタユダ・ヨソディプランSerat Baratayuda Yasadipuranあるいはその他の書物に記されたことはない。この種のスルカンは、ジョクジャカルタ・スタイル特有のものといえよう。
 ジョクジャカルタ・スタイルのスルカンは、スルク・ラゴン Sulik Lagon、スルク・カウィン Sulik Kawin、スンドン Sendon、そしてスルク・オド・オド Suluk Ada-adaに分けられる。このスルカンの種別毎にまたウェタ wetah、ジュゴグ jugog、チュカク cekakの分類がある。
 スルクの旋律もまた、歌われる時点のパテットPathet(ガムランの調)に即していなければならない。
 ジョクジャカルタ・スタイルのワヤン・クリ・プルウォのスルクの研究書が、1985年にガジャ・マダ大学芸術学教授カシディ・ハディプライトノKasidi hadiprayitnoによって著わされた。

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