SABET
サブット

ワヤン人形の動きを担い、パクリラン(ワヤン上演)の進行を司る要素のひとつ。(ワヤンの人形操作全般を指す。)パクリランにおいて、サブットはタンチュバン(tancuban=人形をグドボ <gedebok : バナナの幹を使った土台>に刺して立てること)、ソラあるいはニョラハクン(solah/nyolahaken=人形を動かす事)、ンランパハクン(nglampahaken=歩み)、そしてウンタス・ウンタサン(entas-entasan=場面が修了してクリル<幕>の前からワヤン人形が移動すること)からなる。
 サブットの詳細は以下の通り

  タンチュバン tancuban : グドボにワヤンを刺すこと。このときワヤンの頭と顔はクリル(幕)にくっついている。一方足の部分はクリルに対して一定の距離を持って離れている。足の裏は地平線に対し水平でなければならない。チュムプリット(cumpurit/gapit=人形の支え棒)が短いワヤンや地平線のラインが広すぎる場合は除く。
 ワヤンの傾き、あるいはそれが直立しているか(condong leleh)は、そのワヤンのキャラクター(尊大な人物かあるいは謙虚な人物か等)に合わせなければならない。
 二人のワヤンの人物が対峙する場合、その距離は50センチ位離す。幾つかのワヤンの人物が並ぶ場合は、ワヤンの顔が他のワヤンの顔を隠さないように努めなければならない。
 後から現れてくる人物がある場合、例えば客人が登場する時は、通常のシチュエーションでは、後から現れる人物は全て左側に立てられる。既にその場に登場していた人物たちは右側のままである。場面によって特別な要請がある場合は別である。
 ワヤンが立てられる際には伴奏のガムランが奏でられる。例えばジェジェラン(会議の場面)のように、ガムラン伴奏が必須である場合などは特にそうである。

 ブドラン bedolan : グドボからワヤンを引き抜くことをいう。粗野な印象や、慌てた感じであってはならない。良い方法は、チュムプリットをグドボのちょうど上のあたりで握り、小指、薬指、中指でグドボの表面を押し出すようにして、やさしくワヤンを引き抜く。

 チェペンガン cepengan :チェペンガン(人形の握り方)は、チェペンガン・ムティ、スドゥン、ンゲポ、ンジャガル(metit, sedeng, ngepok, njagal)からなる。詳細はチェペンガンの項を参照。

 ンラムパハクン nglampahaken : ワヤンの歩行。引き抜かれた後のワヤンの足は、クリルの地平線を離れている。

 ニョラハクン nyolahaken : ワヤンを動かすこと。ワヤンの動きは、その人物のキャラクター、容貌に沿っていなければならない。

 ウンタス・ウ
ンタサン entas-entasan : 場面が終了して、ワヤンがクリルの前から外へ移動すること。これもワヤン各々のキャラクターに準じた動きをしなければならない。

SABTAN サブタン

 サブタンとはワヤン・クリ・プルウォのダラン(人形遣)がワヤンの登場人物を動かす技術である。サブタンに熟練したダランはまるで生きているかのようにワヤン人形を使う。このようなダランは通常「ダラン・サブタン dalang sabetan」また「ダラン・サブット dalang sabet」と呼ばれる。一般的にはダランのサブタンは戦いの場面に、より多様に用いられる。というのも戦いの場面は上演技術をアピールすることができるからである。
 より広い意味では、サブタンは、上演に用いられるワヤン人形の状態を整理するダランの知識に多くを負っている。例えば短気で傲慢な人物は、温和で謙虚な人物とはその扱いが異なる。サブタンに対する評価は、単にワヤン人形の動かし方だけで為されるのではないのだ。
 若い年代、また幼いワヤン好きの人たちはふつう、より年配の人よりもダラン・サブタンを好む。
 その意味するところは、サブタンもまたジャワ舞踊の動作の類いであることを示す。とくにワヤン・オランの踊り手たちと関わりがある。
 つまりサブタンとは、二つの意味を持つ。ダランの技術(pedalangan)と踊りの所作の両方に関わる。
 ダランの技術の知識においては、サブタンとは、ダランが手に持ったワヤン人形を動かすダランの手先の熟練、技術に限らない。サブタンは、動いているワヤンの人物ならびに物語の雰囲気を拡げることができなければならない。上手なサブタンを用いてダランは、ワヤン人形の動きで、謙虚さ、礼儀正しい様、良識、威厳、高慢、荒々しさ、また粗野な様などを表現することができる。
 良いサブタンとはまた、定められた場面の雰囲気を醸し出す。緊張感や静謐、また不安や緊迫感をも醸し出せるのである。
 以前の時代、1920年代から1950年代あたりでは、クリルの前でワヤンを宙返りさせたり、放り投げたりするサブタンは上品さに欠けると判断された。そういうダランはワヤン制作者から評価に価しない者とされた。ワヤン人形のセットの所有者も、自分のワヤンがそんなダランに使われたら困るだろう。サブタンが粗野なダランは「ダラン・ンデサ dalang ndesa」また「ダラン・ドゥスン dalang dusun」と呼ばれる。
 とはいえ、そのような考え方は、1980年代初め以来変わりはじめている。ワヤンを愛する民衆は、自然で敏捷なサブタンを受け入れて来ている。そのようなダランに上演を依頼するワヤンの持ち主は、壊されないかと心配するだろう。
 サブタンとは、ダランが持つべき最も重要な条件のひとつである。20世紀末にそのサブタンで有名なダランは、キ・マンタプ・スダルソノ Ki Manteb Soedharsonoとキ・ムルヤント Ki Mulyantである。

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