ANTAWECANA
オントワチョノ

 ギネム (ginem)あるいはポチョパン (pocapan)と呼ばれることもある。ワヤン上演におけるダランひとりでの言葉、対話、独白あるいはワヤン・オランでの役者のそれを指す。オントワチョノはワヤンの人物の特徴を表す機能を持ち、声色、ヴォーカル・テクニック、アクセント、喋り方の調子など声を駆使して、使用されるワヤンの人物の特徴や心情を表す。
オントワチョノを上手に用いてダランは、例えばバゴン、スリカンディ、ボロデウォなどの人物を良好に使い分けることができる。オントワチョノを上手に使えば、ダランはまた特定の章句や単語を用いて(音楽の)パフォーマンスのイラマ(調子・スピード)を規定することもできる。物語の内容に観客の注意を促したり、観客に怒りを覚えさせたり、あるいは苦悩や悲しみの雰囲気に包ませたりもできるのだ。手短に言えば、ワヤン・クリ・プルウォのダランの使うオントワチョノは、観客の情緒を支配するためにあり、彼らをワヤンの雰囲気、世界に引き込み、物語のうねり、キ・ダランの望みに沿わせる機能を持つ。
 ダランにとって、ワヤン・クリ・プルウォのダランでも良いし、ワヤン・ゴレ・スンダ、あるいはまたどんなワヤンでも良いが、声色を変える能力だけでは不十分である。各々のワヤンの人物の性格を理解する事なしに、ワヤンにおける哲学を深く学ぶことなしに、言葉の秩序・過去の名文(カウィ語=ジャワ古文やサンスクリットを含む)を尊重する事なしに、ダランひとりでオントワチョノを良質のものにすることは困難である。
 とはいえ、地域間で言葉が異なる故、オントワチョノまたギネムは時折地域差を持つ事となる。スラカルタまたジョクジャカルタのスタイルに従うダランたちでは、オントワチョノにそれほどの差は無い。バニュマス地域のダランはより独自のものである。方言のみならず言葉の構成に置いても。東部ジャワもまたオントワチョノに独自性を持つ。
 以下にオントワチョノ(ギネム)の例を挙げる。スナルト・チムル(Soenarto Timur)作の本、 Serat Wewaton Padhalangan Jawi Wetananからの抜粋である。
 Sena : Haaa, apa ko'n gak ngerti. Iki aku wis nyemplung tengah kawah, gene gak krasa panas, gak krasa disiksa, malah anget kepenak neng awak.
Cingkarabala : Wah blaen iki, Balaupata. Yok apa apike? Iki dudu sembarang titah.
Sena : Ayo, ndang tuduhna ngendi paapne Pandu bapakku. Nek gak ko'n tuduhna, dakubleg kawah Candaradimuka....
 
 一方で、上手なオントワチョノの能力を身に付けていないワヤン・オランの役者は、成功がおぼつかないだろう。例えば、ラウォノの役を演ずるとして、声の音量、言葉のアクセント、なまり、声色が演じられる人物の性格を表さねばならず、怒りっぽく残酷な性格をも表現しなければならない。彼はまた対話や独白を流暢にできなければならない。そうでなければ、そのワヤン・オランの役者は観客から笑われてしまうだろう。

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